手水を終えて参道に出ると、足元で細かい石が鳴ります。理由を言われなくても、多くの人は中央を少し空け、端を歩きます。頭上には、太い紐の先に大きな鈴が下がり、その下に賽銭箱があります。拝殿の前に立つまでのあいだに、道と、石と、銭と、音が、すでに神の側の作法になっています。
参拝のために歩く参道(さんどう)は、すでに神聖な領域です。足を置くところから、神の側が始まっています。
端を歩く道と、魂の名を持つ石
中央を避け、左右の端を歩くのが、参道の歩き方です。真ん中は正中(せいちゅう)と呼ばれ、神の通り道だとされてきたからです。通る方の邪魔をしないよう、敬意を込めて端に寄ります。ただし、拝殿の正面で拝礼するときは、真ん中に立って祈って差し支えありません。歩くときは譲り、祈るときは正面へ出る。同じ道が、二つの使い方を持っています。
敷き詰められた細かい石を、玉砂利(たまじゃり)と呼びます。玉は、神道において魂(たましい)や御霊(みたま)に通じる、きわめて神聖な語であり、立派な、美しい、という意味も持ちます。砂利は、細かい石を意味するさざれ、細石がなまったものです。玉砂利とは、魂のように美しく清らかな、細かい石、という意味になります。見た目の美しさに加え、雨の日の泥はねを防ぎ、歩く靴音で自分の雑念を払い、境内の清浄を保ち、邪気を祓う役割を持っています。音が、清めの一部なのです。
道の途中には、願いを書いた絵馬(えま)が掛かっています。かつて人は、神への願いや感謝を伝えるとき、本物の馬、神馬(しんめ)を神社へ奉納していました。生きた馬を贈れる人は、限られていました。時代が下ると、木の板に馬の絵を描いた絵馬を奉納する形へ、簡略化されていきます。馬そのものから、馬の絵へ。捧げられるものの大きさが変わっても、伝える先は同じ神でした。
米を撒く手から、銭を置く手へ
賽銭箱の前で、私たちは硬貨を入れます。昔の神社に、お金を納める習慣はありませんでした。
賽銭の賽(さい)という字には、神からの恵みに対するお礼、感謝の意味があります。日々を無事に暮らせていることへの感謝とお礼として、捧げるものです。
大昔の日本で、神への最も神聖な供え物は、命の源である米でした。祭りのとき、米を神前へ直接、ぱらぱらと撒いて捧げたことを、散米(さんまい)と呼びます。やがて、米を白い紙でやさしく包んだおひねりを作って奉納するようになります。貨幣が全国へ行き渡ると、米に代わって金属の銭を供えるようになり、散米から散銭(さんせん)へ、そしていまの賽銭(さいせん)へ移っていきました。銭を投げ入れる動作は、かつて神前へ米を撒いて供えていたときの、手の残りです。
岩戸の前で鳴った鈴
賽銭箱の上には、太い紐の先に、大きく丸い鈴、本坪鈴(ほんつぼすず)が下がっています。鈴の音は、すがすがしく神秘的で、神霊、神の魂を招き、周囲の邪気をきれいに祓うものとして、神道で長く大切にされてきました。
古代には、神に仕える巫女(みこ)が、鈴のついた道具を手に神がかりとなり、神の言葉を人へ伝えていました。鈴のついた鏡、鈴鏡を持った女性の姿の埴輪(はにわ)が、各地の遺跡から出土しています。いまのように社頭の軒に大きな鈴が下がり、参拝者自身が鳴らすようになったのは、中世、鎌倉・室町時代以降のことだと伝えられています。
鈴と踊りが、どれほど深く結びついていたかを示すのが、天の岩戸の場面です。太陽の神、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が岩戸に隠れ、世界が闇になったとき、岩戸の前で動いたのが、芸に長けた女神、天宇受賣命(あめのうずめのみこと)でした。平安時代に編まれた『古語拾遺(こごしゅうい)』によれば、天宇受賣命は鈴のついた矛(ほこ)を手に、その音を鳴らしながら、岩戸の前で激しく踊りました。
古事記が伝えるその舞は、型を大きく外したものです。髪に笹の葉を飾り、胸元を開き、裳の紐を腰の下まで下げ、半ば肌を見せた姿で、ひっくり返した桶を足で踏み鳴らし、腰を振って踊りました。八百万の神々は、腹を抱えて大笑いします。外がこれほど楽しそうだ、と気になった天照大御神が、岩戸をわずかに開けたことが、世界に光が戻るきっかけになりました。
天宇受賣命が鳴らした鈴の音と、神々を笑わせた踊りの楽しさこそが、日本の神楽(かぐら)と、祭りの根源です。ご神前で鳴らす鈴に、「神を招き、喜んでいただく」という気持ちの原点が、ここにあります。闇のこちら側を、笑える場所にしておく。そのために音が要ったのです。
次の参拝では、正中を一歩譲ってから砂利を踏んでみてください。絵馬掛けの前を通るとき、板の馬が、かつての生きた神馬の代わりであることを思い出しても、足は同じ速度で進みます。賽銭を置き、鈴を一度鳴らす。米を撒き、鈴を振って神を迎えた人たちと、手の順番は同じです。
音が消えたあとに残るのは、拝む回数と、手を打つ音です。二拝二拍手一拝と、出雲大社の四拍手が、次の話です。


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