旅先の看板で、神社という字が急に神宮へ変わり、あるいは大社へ変わります。同じように手を合わせる場所なのに、うしろの一語だけが重い。この称号を、社号(しゃごう)と呼びます。まつられる神の格式や、皇室とのつながりの深さによって、使い分けられてきました。
格式の高さは、一般に、神宮(じんぐう)、大社(たいしゃ)、宮(みや・ぐう)、神社(じんじゃ)の順で語られます。一語の違いが、誰をまつるかの歴史を連れてきます。
地名を外したとき、神宮は一つになる
社号のなかで最も上に置かれるのが、神宮です。名乗るための条件は厳しく、基本的には皇室の祖先神、皇祖神、あるいは歴代の天皇をまつる神社に限られます。
全国に〇〇神宮は数多くあります。地名をつけず、ただ神宮と申し上げるとき、指しているのは三重県伊勢市の伊勢神宮だけです。正式名称は、神宮です。すべての神社の上に位置する、別格の社だからです。
皇祖や天皇をまつり、神宮を名乗る社は、各地にあります。鹿児島県の霧島神宮の祭神は、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)です。天照大御神(あまてらすおおみかみ)の孫であり、高天原(たかまのはら)から地上へ降り立った、天孫降臨(てんそんこうりん)の神です。同じく鹿児島県の鹿児島神宮は、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)、山幸彦をまつります。瓊瓊杵尊の子であり、初代天皇、神武天皇の祖父にあたります。奈良県の橿原神宮は、初代の神武天皇です。京都府の平安神宮は、第50代の桓武天皇と、第121代の孝明天皇です。東京都の明治神宮は、第122代の明治天皇と、昭憲皇太后(しょうけんこうたいごう)です。
平安時代の格式ある神社の一覧、『延喜式神名帳(えんぎしきしんめいちょう)』に神宮と記されていたのは、三社だけでした。神宮、すなわち伊勢神宮。茨城県の鹿島神宮は、武の神、武甕槌神(たけみかづちのかみ)をまつります。千葉県の香取神宮は、同じく武の神、経津主神(ふつぬしのかみ)をまつります。
これに加えて、『日本書紀』に神宮と記されていたのが、奈良県の石上神宮(いそのかみじんぐう)です。物部(もののべ)氏の武器庫としての性格を持ち、ご神体の剣をまつります。愛知県の熱田神宮は、三種の神器の一つ、草薙神剣(くさなぎのつるぎ)を留め、古くからきわめて高い格式を保ってきました。
江戸幕府の初代将軍、徳川家康は、死後に東照大権現(とうしょうだいごんげん)となり、朝廷から宮号を受けて、日光東照宮にまつられました。三代将軍家光ら徳川家は、国家予算の約5%、現代の価値で約2,000億円を投じて、豪華な社殿を造営させています。それでも、東照神宮にしてほしい、とは朝廷に言えませんでした。神宮は、天皇と皇祖をまつる場所です。どれほど大きな天下人であっても、臣下である徳川家が名乗ることは、畏れ多いことでした。社号の一語に、皇室と将軍家の距離が残っています。
大社は、ひとりの神の称号だった
大社とは、大きく、すばらしい社、という意味です。
いまは各地に〇〇大社があります。戦前まで、大社といえば島根県の出雲大社、読みはいづもおおやしろ、またいづもたいしゃ、ただ一社を指していました。まつられるのは、地上、豊葦原の瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)の国づくりを完成させた大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)です。天照大御神の思し召しにより、孫の邇邇芸命(ににぎのみこと)へ地上の支配を譲る、国譲りのとき、大国主大神はその功績を称えられ、天に届くほどの壮大な宮殿を建ててまつられました。これが、出雲大社の起源です。神話のなかで特別な役割を果たした神だからこそ、大社の称号は、長くこの一社のものでした。
明治から戦前まで続いた国家の社格制度が、戦後に廃止されると、広く崇敬を集める、地域を代表する大規模な神社が、大社を自称し、あるいは改称するようになります。長野県の諏訪大社、奈良県の春日大社、住吉大社、伏見稲荷大社が、その例です。一人の神が独占していた語が、戦後になって、土地の代表へ開かれました。
御屋と、屋代
宮は、皇室の親王や皇族をまつる神社、国にとって特別な功績のあった人物をまつる神社に用いられます。徳川家康や、菅原道真が、その人物にあたります。福岡県の筥崎宮(はこざきぐう)のように、応神天皇、八幡さまをまつる格式の高い神社、八幡宮の系統も、宮の字を戴きます。
宮(みや)の語源は、御屋(みや)です。尊い、を意味する御と、家を意味する屋。本来は、神や天皇、皇族といった尊い方が住まう邸宅そのものを指しました。それが転じて、神をまつる社の呼び名になっています。
最も一般的で、全国の多くの神社が用いるのが、神社です。語源は、屋代(やしろ)です。屋は、屋根のある建物。代は、神がとどまるための神聖な場所、敷地を意味します。神が一時的に、あるいは常に、とどまっておられるための、建物のある場所。その意味が、やしろという言葉になりました。
次に門の前で足を止めるとき、社号の一語だけを読んでみてください。伊勢なら地名のない神宮、出雲ならかつては唯一だった大社、日光なら宮で止まった東照宮。呼び名が、誰を、どの距離でまつってきたかを先に告げます。
門をくぐると、左右に獣の像が座っています。狛犬と、神の使いと、石灯籠が、次の話です。


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