お宮参りや厄除け、七五三、あるいは会社や個人の特別な祈願のとき、案内の人が、賽銭箱の前を通り過ぎ、社殿の内へ手を招くことがあります。普段の参拝は、拝殿の手前、賽銭箱の前から手を合わせる略式参拝(りゃくしきさんぱい)です。社殿、拝殿や本殿の内部へ上がり、神職に祝詞(のりと)を奏上してもらう特別な参拝を、昇殿参拝(しょうでんさんぱい)、あるいは正式参拝(せいしきさんぱい)と呼びます。ご祈願、ご祈祷という名で申し込むことも多いです。
朝の流れは、短いものです。神社に着いたら、まず社務所、授与所の受付でご祈願の申込用紙を記入し、神へ供える金品、初穂料などを納めます。準備が整うまで、待合で静かに待ちます。案内に従って拝殿へ昇殿し、最初に、ご神前で身を清める修祓(しゅばつ)を受けます。神職が神へ向けて祝詞をあげ、参拝する側は、神前で玉串(たまぐし)を捧げて拝礼します。賽銭箱の前で完結していた時間が、ここでは四人分の役割に分かれます。
最初の米が、封筒の名になった
納める金品の表書きには、一般に、御初穂料(おんはつほりょう)、あるいは御玉串料(おんたまぐしりょう)と書きます。
初穂(はつほ)とは、その年に新しく収穫された、初めての米、新米のことです。日本では、秋の実りに感謝し、最初に収穫した米を神へ供える新嘗(にいなめ)の祭りが、古代から極めて大切にされてきました。その初穂が、時代とともに貨幣へ代わって今へ受け継がれたため、神への供え金を初穂料と呼ぶようになりました。封筒の中は紙幣でも、名は、まだ穂のままです。
なぜ米が、そこまで神聖な名を保つのか。古事記は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が孫の邇邇芸命(ににぎのみこと)を地上へ送り出す場面で、その理由を言葉にしています。三種の神器とともに授けられた、極めて尊い神勅。斎庭(ゆにわ)の稲穂の神勅、と呼ばれるものです。
天照大御神は、高天原にある神聖な田、斎庭で、自ら大切に育てていた稲穂を邇邇芸命へ手渡し、命じました。私が天上で食べているこの尊い米を、地上の国、豊葦原の瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)へ持って行き、そこに暮らす人々とともに田を作って育て、豊かな国を築きなさい、と。この一言によって、日本の稲作が始まり、米は食料であると同時に、神から直接授かった、神の命そのものが宿る物となった、と伝えられます。初穂料を納める手は、秋の実りを神前へ運んだ人の列の、いちばん後ろにいます。
もう一つの書き方、玉串料の玉串とは、神前で祈りを捧げるとき用いる、榊の枝に紙垂(しで)や木綿(ゆう)を結びつけた道具です。神と人の心を結ぶ橋になる枝。その枝の代わりとして神前に捧げる金、という意味から、厄除けや結婚式、地鎮祭、葬儀など、さまざまな神事で玉串料という言葉が広く使われています。
ほどける結びと、ほどけない結び
神社に納めるのし袋は、市販の、紅白の水引(みずひき)がついたもので差し支えありません。結び方だけは、用途で分かれます。
蝶結び、花結びは、何度あってもよいことへ用います。引っ張るとほどけ、何度でも結び直せるからです。初宮詣、七五三、安産祈願、社運隆盛。繰り返されてうれしい祝いが、こちらです。
結びきりは、一度きりであってほしいことへ用います。一度結ぶと固くしまり、ほどけないからです。厄除け、厄祓い、病気平癒、祈雨や祈晴、神葬祭。結婚式も、一度きりであってほしいため、結びきりを用います。同じ紅白でも、ほどけるかどうかが、願いの性質を先に告げています。
上がる前の身なりと、内の真ん中
神のすぐ近く、社殿の奥へ上がる正式な参拝では、服装は、敬意を示すためのフォーマルな正装が基本です。
男性は、黒、紺、グレーなどダークカラーのスーツ、または落ち着いたジャケットにスラックス。ネクタイを着け、足元は落ち着いた革靴。女性は、落ち着いた色のスーツ、フォーマルなワンピース、または上品な着物。ミニスカートやノースリーブなど、露出の高い服は避け、ストッキングなどを着けて上がります。素足のままは、控えます。観光地の神社では私服のまま昇殿できる場合もあります。そのときも、ジーンズ、サンダル、Tシャツ、過度な露出は、神に対して礼を欠きます。少なくとも、襟のついたシャツと、端正な身なりで臨む。
殿内の拝礼には、二つの姿勢があります。畳の上に正座して拝む座礼(ざれい)。椅子に座って拝む立礼(りゅうれい)。立礼では、神道ならではの、折りたたみ式の木製の丸椅子が用いられることがあります。これを胡床(こしょう)と呼びます。
本殿の真ん中、神の正面にあたる一本の線は、神の通り道、正中(せいちゅう)です。参道の外だけでなく、社殿の内でも同じです。神の正面を堂々と横切ることは、礼にかないません。移動する場所も、座る席も、神職や巫女の案内に従って、静かに動く。封筒を納めたあとの時間は、自分の足で道を選ぶ時間から、案内の足に合わせる時間へ変わります。
内へ入った次の瞬間に問われるのは、どの膝から床へつき、どの角度で頭を下げるか、です。昇殿での立ち座りと、四種類のお辞儀が、そこから始まります。


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