元日の朝、鳥居の前はすでに人の列です。手を合わせる人の奥で、神職の声が拝殿から漏れています。初詣の賑わいが始まる前に、その年の最初の祭祀は済んでいる。1月1日、全国の神社で行われる歳旦祭(さいたんさい)です。元日の朝、宮中をはじめ各地の社で、新しい年を祝い、皇室の永遠と国民の繁栄を祈る、盛大な祭典です。一年の最初の祭祀であり、分類のうえでは中祭(ちゅうさい)に置かれます。大祭に次ぐ層です。全国の神社で、日付を共有するものが多く集まります。
年の初めの、二つの祈り
歳旦祭の2日後、1月3日には元始祭(げんしさい)があります。宮中および全国の神社で行われ、年の初めにあたり、皇位の本と、その御由来とを祝います。祈るのは、皇室が永遠に発展することと、国の力が充実することです。元日が年そのものを祝う朝だとすれば、3日は、皇位がどこから続いているのかを改めて拝する日です。同じ正月でも、祈りの向きが少し違います。
2月11日は、紀元祭(きげんさい)です。この日は建国記念の日でもあります。日本書紀によれば、辛酉年正月1日、初代の神武天皇が、奈良県の橿原宮で即位されました。その日を2月11日に置き換えて紀元節とし、明治6年からは、神武天皇の建国の偉業を仰ぎ、神を愛する心を新たにし、皇室の永遠と国家の発展を祈る祭典が行われてきました。古い即位の記事と、近代に固定された日付が、この一日で重なります。
その同じ2月に、もう一つ中祭があります。2月23日の天長祭(てんちょうさい)です。天皇陛下の誕生日を祝い、ご長寿を祈る神事です。建国を振り返る日から10日あまりして、いま位にある方の誕生日を祝う。中祭の春は、過去と現在を続けて拝む並びになっています。
復興を願う日と、伊勢の新穀
4月29日は、昭和祭(しょうわさい)です。昭和天皇の誕生日にあたります。先の大戦を経て、日本を復興と発展へと導かれたその偉業を仰ぎ、国家の発展と平和を願う祭典が、全国の神社で行われます。緑の深い季節のこの日は、祝日の喧噪の奥で、復興と平和を祈る祭祀の日でもあります。
秋に入ると、視線は伊勢へ向きます。10月17日の神嘗祭奉祝祭(じんじょうさいほうしゅくさい)です。伊勢の神宮は、日本人の総氏神とされてきました。神宮で神嘗祭が行われるその日に、全国の神社は奉祝の意味を込めて、この祭りを行います。神嘗祭は、新しい穀物を天照大御神(あまてらすおおみかみ)に奉る、重いお祭りです。天皇陛下がお育てになった御初穂や、全国の農家から届く初穂が奉納されます。
名前のよく似た祭りに、新嘗祭(にいなめさい)があります。神嘗祭が伊勢の神宮の祭典であるのに対し、新嘗祭は全国の神社と宮中の祭典です。新しい穀を奉る点は通い、場が違います。奉祝の日に全国の社が伊勢のほうを向くのは、総氏神の収穫を、自分の土地の祭りとしても祝うためです。
11月3日の、明治の誕生日
11月3日は、明治祭(めいじさい)です。明治天皇の誕生日にあたります。激動の明治という時代に、日本を近代の国家として発展させることに力を尽くされた大業を仰ぎ、皇室の永遠と国家の発展を祈る祭儀です。文化の日として知られるこの日付の奥に、中祭が一つ座っています。
一年を日付だけで追うと、中祭はこう並びます。1月1日の歳旦祭、1月3日の元始祭、2月11日の紀元祭、2月23日の天長祭、4月29日の昭和祭、10月17日の神嘗祭奉祝祭、11月3日の明治祭。大祭が社ごとの運命や、収穫の往復を担うとすれば、中祭は皇室と国の時間を、全国の鳥居の下で同じ日に結ぶ役割を持っています。
紀元祭が記念する神武天皇は、古事記と日本書紀に登場する初代の天皇です。天孫降臨の末裔が神武東征の旅で東へ進み、大和を平定して即位した、と伝えられます。古事記の建国の物語は、神々の子孫が地上を治める話です。2月11日は、そこに記された「国のはじまり」を、いまの祭祀として祝う日でもあります。橿原の即位から、元日の歳旦祭まで、中祭は長い時間を一年の暦へ折りたたんでいます。
中祭の日付が一年を区切ったあと、残るのは、毎日と毎月と、年の境の夜です。日供祭、月次祭、除夜祭。大祭にも中祭にも入らない、小祭の静かな膳を、次に見ます。


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