本殿のまわりに足場が組まれ、普段は開かない木の香りが境内に広がっている日があります。その脇に、いつもより小さい社が仮に建っている。神は、工事のあいだそこへ移されます。槌の音は修復の音であり、同時に、神の席が動く音です。毎年決まった日に繰り返す祭りとは違い、社そのものの形が変わるときに行われる大祭があります。臨時の大祭です。式年祭、鎮座祭、遷座祭、合祀祭、分祀祭が、その列に並びます。なかでも式年祭と鎮座祭と遷座祭は、神社にとって最も重い祭儀とされてきました。
年の数で、記憶を呼び起こす
式年祭(しきねんさい)は、定まった年ごとに行われる祭典です。その一定の期間を、式年と呼びます。間隔には、よく見られる並びがあります。3年、5年、10年、20年、30年、40年、50年、100年、そして以後は100年ごと、といった刻みです。神社によっては、7年、12年、60年ごとに行う場合もあります。もとの鎮座の日など、その社にとって起点になる日にあてられることが多い祭りです。
12年という間隔は、具体的な祭りの名でも記憶されています。鹿島神宮と香取神宮の神幸祭は、12年ごとに行われます。20年の側では、伊勢神宮の式年遷宮が知られています。20年ごとに社を新たに建て替えるこの行事は、式年祭の代表的な例として語られてきました。年の数は、清らかさを取り戻す周期として働いています。古びる前に建て直す、という決断が、式年という言葉の奥にあります。
初めて座る日と、席を移す日
鎮座祭(ちんざさい)は、神社が新たに創建され、ご祭神が初めてそこに鎮座するときの祭りです。神をその土地の席に座らせ、これから先をお守りいただくための大祭です。社の時間が、その日に始まります。神がそこに座って、その土地の神社としての時間が動き出す、という順序です。
すでに座っている神を、別の場所へ移すのが遷座です。ご神体、すなわち御霊代を他所へ遷すことを、そう呼びます。遷座祭(せんざさい)は、社殿を造り替える際に、ご祭神のご動座を伴う時を定め、社殿を一新し、神威が一層高まることを願う祭儀です。造替には、必要が生じたときの臨時のものと、20年、60年というように定期的に行う式年遷座祭とがあります。
移り方は、多くの場合、二段です。造営に入る前、本殿から仮殿へご祭神を遷すのが仮殿遷座祭です。仮殿は、かでん、かりどの、と読みが揺れます。造営が終わったあと、仮殿から新しい本殿へ戻すのが本殿遷座祭です。工事のあいだも、神は仮の席で祀られ続けます。鎮座祭が、初めて迎える日だとすれば、遷座祭は、すでに鎮座している神を移す日です。同じ「座」でも、始まりと移動は別の祭りになります。
一つに合わせ、一つを分ける
合祀祭(ごうしさい)は、神霊を合わせて祀る祭事です。神社が合併するとき、あるいはご祭神を新たに増やすときに行われます。合祀とは、別々に祀られていた神を、一緒に祀ることです。歴史のなかで、社が一つにまとまり、神が同じ屋根の下へ移されたとき、その都度この祭りが執り行われてきました。別々だった席を、一つの屋根の下で共にする、という手続きです。
反対の方向へ動くのが、分祀祭(ぶんしさい)です。ご祭神を分けて祀る祭事で、新たに創建された分社へ、ご祭神の分霊を勧請するような場合に行われます。本社の神の力を分け、分社や末社を興すときの祭祀です。名の知られた神社の分社が、各地に点在するのは、この分祀が繰り返されてきたからです。一つの神が、複数の土地で同時に祀られる。分けたあとも、本の社とのつながりは切れません。
合わせる合祀と、分ける分祀。言葉は対になっていても、どちらも神の居場所を真剣に決め直す大祭です。合併で神が増えるときも、新しい社へ分霊が旅立つときも、人は祭りの手続きを経て、はじめてその移動を公のものにします。
神は、場所を変えて土地を治めた
神が席を移す感覚は、古事記のなかで繰り返されます。神々は天から地へ、ある場所から別の場所へ移り、その土地を治め、人を守る。天孫降臨も、神武東征も、「神が新しい場所に鎮まる」物語です。いまの遷座祭や鎮座祭は、その神話的な移動を、厳かな祭祀の形にしたものとして読むことができます。足場の向こうの仮殿は、神話の旅の、ごく小さい今日版です。
臨時の大祭が、社の一生の節目だとすれば、毎年同じ日付で全国が息を合わせる祭りは、別の層にあります。歳旦祭から明治祭まで、大祭の次に位置する中祭が、一年の暦を同じ日で結んでいます。


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