棟木の上に、弓と扇が立っている
柱が空に届き、いちばん高い横木、棟木が渡された朝、その上に色の強い弓矢と扇が立てられます。上棟祭でお祀りされるのは、家屋の守護神とされる神々です。屋船久久遅命(やふねくくのちのみこと)、屋船豊宇気姫命(やふねとようけひめのみこと)。工匠の神である手置帆負命(たおきほおいのみこと)、彦狭知命(ひこさしりのみこと)。そして地域の神様、産土神です。この名を、棟札(むなふだ)や祭りの中央に書きます。
棟札の書き方には、地域ごとの癖があります。奉鎮祭の文字、屋船久久遅命と屋船豊宇気姫命、手置帆負命と彦狭知命、某家の産子、某家の子孫繁栄、工事安全。そうした文言が、一枚の札に並ぶ例があります。札は、その日の祈りの目録であり、のちに屋根裏から見つかる、家の履歴書にもなります。神名は、次の修理の日まで、棟の内側で家とともに年を重ねます。
祭壇は、屋上に設けることがあります。棟木には幣帛、神様への捧げものを添え、作り物の弓矢や扇を立てます。弓矢と扇には、魔除けの意味があります。まだ壁のない高さで、鮮やかな弓と扇が風に映えます。工匠の神の名を札に残すのは、木を組み、家の形を決めた人の技を、家の神々の列に加えておくためです。屋船の二柱は家屋そのものを守り、手置帆負命と彦狭知命は工匠の側に立ち、産土神はその土地に昔からいる神です。名が中央に並ぶとき、家は、神々と地域の守りを屋根の下に書き込んだ建物になります。奉鎮祭、某家の産子、子孫繁栄、工事安全。地域で文言が揺れても、札が祈りの記録であることは変わりません。住まいを作る仕事は、昔から神とともに進められてきました。
えいっこん、という声が棟を打つ
上棟祭といえば、槌打ちです。柱を立て、屋根の要となる棟木を上げるときに行われるお祭りです。そのなかで最大の儀式と呼ばれるのが、槌綱の儀です。参列者が総出で「えいっこん」と掛け声を上げ、棟木を棒で打ち固めます。声が揃い、木が鳴る。家の骨が、その一撃で、ここに居ることを認められたように見えます。掛け声は綺麗に揃わなくてもかまいません。総出であることが、槌綱の儀の本体です。棒が棟木に当たり、上棟祭のなかで最も大きい儀式が、音とともに終わります。
散餅の儀や、稲打の儀は、省略される場合もあります。祭りが終わると、建主が工事関係者や近所の人々に御祝儀を配り、餅などを撒きます。撒くことには、災いを除く意味があります。屋根の上から落ちてくる餅を、下にいる人が受け取る。建物の幸運を、その場にいた人へ分け与える所作です。散餅の儀や稲打の儀が略される日でも、御祝儀と餅撒きが残れば、災いを除き、福を分ける意味は祭りの終わりに残ります。工事の人々と近所が、同じ地面で餅を拾う。上棟は、棟の上の神事と、地上の分かち合いとで、一日が閉じます。
部屋の真ん中で、完成を告げる
家ができあがると、竣工祭です。一般には、建物の中心にあたる部屋で行います。工事を見守ってくれた神様に、無事の完成を奉告するお祭りです。工事関係者やご近所にも、感謝を表して始めたい、という気持ちが、この部屋に集まります。地鎮の朝に中央へ置いた祭壇が、完成の日には、家の中心の部屋へ場所を移したようにも見えます。そこで、工事を見守った神へ無事を告げ、関係者と近所への感謝を口にします。地面の中央だった一点が、屋根と壁に包まれて、人が暮らす部屋の真ん中になる。竣工祭は、その移動を確認するお祭りです。
中古の住宅やマンションを購入したときも、神棚はそこから始まります。近くの神社に頼んで、土地と家屋を祓い清め、神棚をお祀りします。誰かが先に住んでいた壁であっても、新しい家族がその棚の前に立つ日が、家のお祭りの出発点になります。
棚に納めた札の奥にいる神を、正式な社の名で訪ねる旅が、この先にあります。伊勢の神宮とは何か。百二十五の社が、一つの神宮を形づくっています。


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