『古事記』と『日本書紀』は、天皇の先祖を、どのように伝えているのでしょう。
『古事記』は、人の起源についても、日本人の起源についても、何も記していません。記すのは、天皇の祖先です。列島が生まれたあとの神々の話は、国生みにまとめてあります。ここはその続きです。
三貴子
国生みで日本列島を生んだ伊邪那岐神(いざなきのかみ)は、最後に身を清めてから、左の目を洗うと天照大御神(あまてらすおおみかみ)、右の目を洗うと月読命(つくよみのみこと)、鼻を洗うと須佐之男命(すさのおのみこと)が現れました。いずれも尊い神なので、三貴子といいます。天照大御神は、父から高天原(たかまのはら、天上の世界)を「知らす」(治める)ように命じられました。
いっぽう葦原中国(あしはらのなかつくに、地上の世界)では、須佐之男命の子孫にあたる大国主神(おおくにぬしのかみ)が立派な国を作りました。話し合いの結果、葦原中国は天照大御神に譲られることになります。話し合いで国が譲られたので、これを国譲りといいます。やり取りの中身は、次の記事にまとめます。
孫が、地上へ降りる
そこで天照大御神は、自らの孫を葦原中国へ遣わし、国を治めるように命じました。この命令で地上に降臨したのが、初代天皇とされる神倭伊波礼毘古命(かむやまといわれびこのみこと)の祖先にあたる、邇邇芸命(ににぎのみこと)です。天つ神(高天原の尊い神。ここでは天照大御神)の孫が降臨したので、天孫降臨といいます。
このとき天照大御神は、邇邇芸命に八尺勾瓊(やさかのまがたま)、御鏡(みかがみ)、草薙剣(くさなぎのつるぎ)を授けました。これが、「天皇が天皇であることの証」といわれる三種の神器です。これらはのちに歴代の天皇へ受け継がれ、現在の天皇にも受け継がれている、と伝えられています。
| 三種の神器 | 読み |
|---|---|
| 八尺勾瓊 | やさかのまがたま |
| 御鏡 | みかがみ |
| 草薙剣 | くさなぎのつるぎ |
令和元年5月1日、平成の天皇陛下から現在の天皇陛下へ、剣(草薙剣)と璽(じ、八尺勾瓊)を受け継ぐ剣璽等承継の儀が、皇居の宮殿で執り行われました。
稲穂を持たせて降ろす
『日本書紀』も、これに近い神話を伝えています。ただし天照大御神は、「私が高天原に持っている斎庭の穂(高天原の清らかな田で育てた稲穂)を持たせなさい」と仰せになり、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと。邇邇芸命のこと。『日本書紀』では異なる字を用いています)に、神聖な稲穂を持たせて降臨させたと書かれています。
天孫降臨の神話は、天皇の祖先にあたる天つ神の子孫が、高天原から葦原中国へ降臨したことだけを伝えるのではありません。まもなく社会の土台となる稲作の起源は、天皇の先祖からもたらされた、ということも伝えようとしています。天皇の祖先について記紀がこのように記していることから、当時の日本人の考え方が、このようなものであったと知ることができます。
二つの神勅
読み下し文とは、もとの漢文を日本語の語順に直し、送り仮名などを付けて書いた文です。天孫へ下された命令は、二つの書で次のように残っています。
『日本書紀』の天壌無窮の神勅は、こう読み下されます。
葦原千五百秋瑞穂国は、是、吾が子孫の王たるべき地なり。爾皇孫就きて治らせ。行矣。宝祚の隆えまさむこと、天壌と無窮けむ。
意味は、葦原の千五百秋の瑞穂の国は、わが子孫が君主として治めるべき土地である、皇孫であるあなたが行って治めなさい、さあお行きなさい、皇室の栄えは天地とともに永遠であろう、というものです。
『古事記』の天孫降臨の神勅は、この豊葦原の水穂の国は、あなたが治める国である、と命じ、その命令のとおりに天降れ、という内容です。読み下しでは、「此の豊葦原水穂国は、汝が知らさむ国ぞと言依し賜ふ」と、国を治めることを委ねています。

